読後感
先週半ばに,D論のドラフトを仕上げて先生のところへ投げてきたの
で,昨今,暇.
いや,暇なはずはないのだが,論文そのものはしばらく見ないことにしている.
一つに,暫く置いてから読み直す方が,文章のおかしさや構成の不具合もわかるから,
また一つに,どうせ,真っ赤になって帰ってくるから(参考:Piled Higher and Deeper 2006年3月7日分)
さらにも一つ,ともかくもう「PhD dissertation」とかという言葉を見たくも聞きたくもないから(笑).
---半分冗談で,半分本気(笑).
この一週間ほどは,パイプをぱかぱかやりながら,じっくり各種論文考究に取り組んでいる.
以前にも読んである論文でも,何が言いたいんだかわからなかったりしたものも多かったのだが,改めてじっくり論文に取り組んでみると,納得のいったりする ことがあるから不思議.あと,文の調子や内容がいやに冷静でないと疑問だった論文が別途読んだ論文中にあらわれる持論への反論に対する更なる反論論文であ ることを知るなど,なかなか面白い.なかなかこうしてじっくり論文考究に取り組めなかったから,よい機会であると喜んでいる.それもこれも,口頭試問の為 なり(苦笑).
とはいえ,毎日毎日エーゴばかり読んで暮らすのはちと辛い.なので,日本語の本が読みたくてしようがなかった本日,実家より荷物が届き,その中に古本屋に注文しておいた2冊の本が入っていたので,早速それに取り掛かり,即日,一冊読了.
『海軍主計大尉 小泉信吉』 小泉信三 著 (文藝春秋刊)
以前同著者の手になる『平生のこころがけ』を引用したが,かの本読了以来(いや今もしばしば読み返している),すっかりこの人の文章に惚れ込み,何よりそ の考えなど大変尊敬できると思いまた見習わねばと思われることもあり,今回古本屋で頼んだのは,二冊とも,小泉信三氏の著書であったりする.
今日読了したこの本は,信三氏のご令息信吉氏について書かれたいわば伝記である.親の手になる子の伝記というだけで痛ましいが,果たして如何なるものなるか,と読んでみた.
簡潔にして,無駄のない文章に,かえってその悲しみを見る気がした.
以下,心に残った箇所.出征する信吉氏に宛て信三氏が手紙に書いたこと:
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君の出征に臨んで言って置く.
吾々両親は,完全に君に満足し,君をわが子とすることを何より誇りとしている.僕は若し生まれ替って妻を択べといわれたら,幾度でも君のお母様を択ぶ. 同様に,若しわが子を択ぶということが出来るものなら,吾々二人は必ず君を択ぶ.人の子として両親にこう言わせるより以上の孝行はない.君はなお父母に孝 養を尽くしたいと思っているかも知れないが,吾々夫婦は,今日までの二十四年の間に凡そ人の親として享け得る限りの幸福は既に享けた.親に対し,妹に対 し,なお仕残したことがあると思ってはならぬ.今日特にこのことを君に言って置く.
今,国の存亡を賭して戦う日は来た.君が子供の時からあこがれた帝国海軍の軍人としてこの戦争に参加するのは満足であろう.二十四年という年月は長くは ないが,君の今日までの生活は,如何なる人にも恥しくない,悔ゆるところなき立派な生活である.お母様のこと,加代,妙のことは必ず僕が引き受けた.
お祖父様の孫らしく,又吾々夫婦の息子らしく,戦うことを期待する.
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この手紙をキザだと見るか何とみるかは人次第と思う.
ともかく考えさせられたのは,果たして俺が仮に信三氏の立場にあったとして,ここまでのことを言って出征する子供を送り出せるかどうかという点,また更 に,俺が息子という立場にあるという事実に於いて果たして俺は信吉氏のごとく,両親をして斯く言わしめるごとき息子で在り得たかという点についてである. 前者については想像の域を脱しないから別として,後者については,我が両親は果たして何と言うかわからぬけれど,自身を振り返るに,甚だ情けない気持ちに ならざるを得ない.
この本を読んでいる最中常に頭に浮かんでいたことがあった.我が家の菩提寺の院主さんが法事の際におっしゃられた言葉,
「<親が死に,子が死に,孫が死に>これが一番いいのです」
なんてとんでもないことを言う坊主だ,と俺を含め周りの親戚一同そう思ったことに相違ないが,要するに院主さんの言わんとすることは,親,子,孫と順々に 死んでいくのなら,仮にそれが少しまわりより早かろうとも幸せとするべきだ,もしこの順番が狂って,先に死ぬべきものが残されたら,それは長生きしても辛 いものだ,というような意味だった.俺はこの実例を我が曾祖母に見る.即ち,実子二人共に先に逝かれ,常々,自分は業が深いのだ,というようなことを言っ ては嘆いていた.
国家の急の秋とはいえ,子供に先に逝かれるより親として辛いことはなかろう.それを超越した点において書かれた上の手紙は,果てしなく重いものだとつくづ く思われた.人の命は地球より重いとかなんとかという標語は胡散臭いが,親の愛は何よりも大きく深い,とは古今東西普遍の事実であろう.


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